ロルフィングとは
私たちは、常に重力の影響を受けながら生活しています。日常生活における健康の質は、その重力に如何に適応できるかによって変わってきます。適応力が弱まると、重力との勝ち目のない戦いが知らないうちに始まっています。そのことが慢性的な疲れや痛みを生じさせ、時には気分まで塞いでしまうこともあります。
ロルフィング® は、身体をくまなく包むfascia（筋膜、ファシア）に働きかける手技を通して深部感覚（固有受容性感覚ともいう）を活性化させ、組織間の緊張関係を整えます。私たちは深部感覚を、皮膚や内臓の感覚と絡み合わせて、私たちの住む世界を解釈しています。これらの感覚の統合過程では、自律神経系や感覚入力量を調節する網様体賦活系にも影響を及ぼします。深部感覚が鋭敏になることにより、さまざまな生活の場面において不均衡を生じさせた癖や習慣に身体自身が目覚め、バランスのとれた動きが生まれます。
つまりロルフィングは、身体を取り巻く世界観と個々の関節の位置や腱の張力などが相互に響き合いながら、感覚と動作がより調和のとれた状態に徐々にシフトすることを助けます。さらに、バランスのとれた姿勢と身体の使い方を自ら発見する楽しさを経験することで固定されがちな世界観の変化を許すため、施術後も健康の質を創造的に高めることができます。
ロルフィングはアスリート、ダンサーやヨガ練習者にも、幅広く受け入れられています。心地良さの増加、慢性的な痛みの緩和、外傷からのリハビリ、新しい表現の発見、動作のパフォーマンス改善に役立っています。
ロルフィングの施術内容
指、手、時には肘を使っていろいろな層の筋膜に適した圧を加えます。クライアントの動きに合わせて、筋膜の伸長方向に沿って動かしたりもします。これにより、感覚運動系の反応が良くなり、だんだんと筋膜が適切な位置（筋肉、血管、末梢神経およびリンパ管が効率的に働く位置）に収まるようになります。
ロルフィングの施術は、あたかもジャズの即興演奏（ジャムセッション）のように施術者とクライアントが共同で作り上げるものなので、「セッション」と呼びます。
１０シリーズでは、セッションを１０〜１３回積み重ねてお客様のご要望を追求します。セッションの間隔は１〜３週間空けます。各セッションの始めに姿勢や動きを評価して目標を設定します。１０シリーズの各セッションの目標は下記を基本とします。施術は、マッサージ・テーブルと椅子で行います。
セッション１〜３：楽に呼吸をする。安定して立つ。足の指を使って歩く。身体の前後の奥行きを広げる。足と骨盤、胸と腕を区別する。
セッション４〜７：足と骨盤底を中心軸の周りにバランスする。足から腹に力を伝える。胸と背中を伸ばす。骨盤と肩甲骨を連携して歩く。頭と首を中心軸の周りにバランスする。視覚・聴覚・平衡感覚を協調して使う。
セッション８〜１０：表現が水平面でまとまる。手と空間知覚を使って能動的に動く。手足の支持面から体軸に沿って対角にうねりが伝わる。
ロルフィングの歴史
アイダ・ロルフ（1896~1979)は、ニューヨークにあるロックフェラー医学研究所で生化学者として基礎研究の道を歩み始め、第一次世界大戦中に大流行したスペイン風邪の機構究明に従事しました。その後、1925年にヨーロッパに渡って相対性理論や量子力学などの新しい物理学とオステオパシーなどの自然治癒療法を夢中で学びました。
アイダは息子と自身の健康を取り戻すために様々な治癒やヨガを試した末、科学的パラダイムに対抗する形で現れたホーリズム（全体論）に傾倒していきます。アイダは慢性痛のようなシステムが複雑に絡み合った症状では、原因を特定して治すことをゴールとするのではなく、人間の身体構造を重力との関係性に基づいて統合することが、健康な状態を維持しさらに高めるための近道と考えました。
ニューヨークに戻ったアイダは施術を繰り返して、その治癒効果を改善していきます。1954年にアイダはオステオパシー学校でPostural Dynamics（姿勢の力学）の授業を開き、彼女の哲学と手技を教えました。これがStructural Integration（構造的統合）を１０回の施術セッションで組み立てるロルフィング１０シリーズの原型です。
1960年半ばにアイダは人間性回復運動のメッカとされるエサレン研究所で、同時代の先駆者たちと幅広く交流します。元看護師、ダンサー、ゲシュタルト療法等の経験者でアイダの教えを受けた人たちは、１０シリーズとは別にSomatic Education（感覚運動系の教育）を組み立て、のちにロルフムーブメント™に発展しました。
1972年にはコロラド州ボルダーに教育機関Rolf Institute of Structural Integration(現在のDr. Ida Rolf Institute®)が設立され、ロルフィング (構造の調和を目標とした結合組織に働きかける手技療法) とロルフムーブメント (機能の調和を目標とした動き方の教育) を普及しています。アイダの無形の遺産は、その流れをくむ学校と卒業生が伝承するとともに、今も１０シリーズを時代のニーズに合わせてさらに進化させています。